チェスターNEWS -2017/10/31-
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生産緑地内の農地を賃貸しても相続税の納税猶予の適用が可能に?

1.2020年問題とは
生産緑地制度は、良好な都市環境を確保するため農林漁業との調整を図りつつ、都市部に残存する農地の計画的な保全を図る制度をいいます。
現在、生産緑地に指定されている農地は平成4年(1992年)の生産緑地法改正時に指定を受けたものが大半を占めていると考えられますが、その生産緑地内にある農地は、生産緑地指定を受けてから30年を経過するか、またはその農地の主たる農業従事者が死亡するまでは、市町村への買い取りの申し出をしたうえで生産緑地の指定を解除することはできません。
現行の生産緑地内の農地の多くが2022年に指定を受けてから30年を経過することとなり、農業に従事する後継者がおらず農業経営を断念することを検討している方は市町村への買い取りの申し出をされることとなると予想されます。しかし、市町村の財政状態次第ではありますが、すべての生産緑地内の農地を「時価」で買い取ることは不可能であるため、結果的に生産緑地の指定が解除され、宅地化が進むと懸念されています。
2. 生産緑地などの都市農地の賃貸に対する問題点
農地法17条では「農地又は採草放牧地の賃貸借について期間の定めがある場合において、その当事者が、その期間の満了の一年前から六月前までの間に、相手方に対して更新をしない旨の通知をしないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものとみなす。」と定められています。また、同18条においては「農地又は採草放牧地の賃貸借の当事者は、政令で定めるところにより都道府県知事の許可を受けなければ、賃貸借の解除をし、解約の申入れをし、合意による解約をし、又は賃貸借の更新をしない旨の通知をしてはならない」と規定されています。
農地の所有者からすれば自動更新の上に都道府県知事の許可が無いと賃貸借を解除できないため、そもそも農地を貸すことを躊躇してしまう方が多くいるのが現状です。
また、現行法上の相続税の農地に係る納税猶予制度では、この制度の適用を受けている生産緑地内の農地を賃貸した場合には納税猶予が打ち切られ、利子税とともに相続税を一括納付しなければならないという問題もあります(市街化区域以外の農地につき一定の要件を満たした特定貸付けは除きます)。
3. 都市農地の貸借の円滑化に関する法律案の骨子について
農林水産省は平成29年9月に「都市農地の貸借の円滑化に関する法律案の骨子」をまとめ、そのなかで生産緑地内の農地について事業計画の認定制度を創設することを謳っています。
この事業計画の認定制度とは、生産緑地内の農地を賃貸する場合に、一定の要件を満たす事業計画を作成して市町村に提出し認定を受けることができれば、農地法の特例(農地法第17条が適用されません)を受けることができるというものです(下記の図参照)。つまり、生産緑地内の農地につき事業計画に基づく農地活用が終了後に農地法の特例に基づき所有者に農地が返還されることになります。
また、当該事業計画に基づく賃貸借であれば、納税猶予を適用中の生産緑地内の農地に係る賃貸借であったとしても、引き続き相続税の農地に係る納税猶予を適用することができるようにする方向になると見込まれています。
都市農地の賃貸を円滑にすることで、農地所有者の賃貸に対する心理的なハードルを下げて、2022年問題や相続税の農地に係る納税猶予などの問題にも対応することで、結果として日本の農家と農業を守る意図があると考えられます。

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