チェスターNEWS -2015/02/25-
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相続時において例外的に時効が発生する場合について
相続発生後、遺言書や公正証書が無く、他に相続人がいることを知っていたとしても、必ずしも遺産分割協議を行わなければいけないという決まりはありません。そのため、相続税の申告が不要、不動産の登記変更不要等の理由で遺産分割協議を行わない方も少なくありません。
このような状態が何十年も続いた場合、時効にかかり、所有し続けた相続人に権利が自動的に移るのではないかと考えられる方もいらっしゃるかと思いますが、答えはNoです。
つまり、遺産分割協議を請求する権利は、何年経っても時効にかかることは無いということです。逆に言ってしまうと、遺産分割協議の必要がある状態で、それを行わない場合には、何年経っても、相続人同士で共有の状態が続き、権利関係が確定されないという事なのです。
しかし、下記のような特別なケースにつきましては、時効の問題が生じますので、注意が必要です。
1. 遺留分減殺請求権
遺留分減殺請求権とは遺言書や公正証書で指定された内容が、ある法定相続人の遺留分を侵害している場合に、遺産の多くを取得した相続人や受遺者に対して遺留分侵害の限度で返還を請求する権利のことです。
そもそも、被相続人は自己の財産を自由に処分できるのが原則なので、遺言書や公正証書の内容は尊重されるのが前提ですが、これを全て許してしまうのではなく、被相続人と生活をともにしてきただろう法定相続人の権利も一定を限度に保護しましょうという趣旨です。
ただし、この遺留分減殺請求権は
・相続の開始、減殺すべき贈与または遺贈があった事を知った時から1年※ → 消滅時効
・上記相続開始等を知らなかったとしても相続開始から10年 → 除斥期間
の期間を超えると行使できません。
※単に知っただけでなく、自己の権利を侵害され、遺留分減殺請求の対象であることまで認識していることが必要と解されるのが一般的です。
2. 相続回復請求権
相続回復請求権とは、『相続権』の侵害に対し、遺産の占有を排除し、遺産の返還を求めることができる権利のことです。こちらも遺留分減殺請求と同様に期限があります。
- ・表見相続人※等により、侵害されていることを知った時から5年→ 消滅時効
- ・上記侵害を知らなかったとしても相続開始から20年 → 除斥期間
※戸籍上は相続人として見えるが、相続欠格者や被相続人により排除された者などで相続権を失っている者
相続回復請求権は下記のような相手方に請求できます。
- ・表見相続人
- ・共同相続人のうち善意・無過失(相続権を侵害していると認識の無い者、また過失が無い)の者
しかし、共同相続人のうち悪意の者(共同相続人であることを知りながら占有した者)については、消滅時効や除斥期間がありませんので、遺産分割協議が行われていないうちは、いつまでも回復の請求ができます。たいていの場合は、こちらに当てはまるのではないでしょうか。
これは下記図Ⅰのように、共同相続人には各々法定相続分に対応した持分がありますが、自己の持分を越えた部分についての権利も有している訳では無く、もしも、図Ⅱのように他の共同相続人の持分を侵害している場合には、合理的理由があるか否かを検討するべきであることを示しております。
つまり、自らの相続分を越えた部分に対して、善意・無過失等合理的な理由がある場合には、表見相続人と同様に相続権の侵害が認められるため、時効が生じ、それがない場合には、相続権の侵害とすら言えない、単純な権利侵害とし、時効を認めないと解釈することができます。

以上のように、相続における時効は特殊なケースで生じると考えて差し支えありません。しかし、ご自身の置かれている状況が、正にこの時効の生じる特別なケースに該当するかもしれませんし、遺産分割協議を行うことで初めて認識する事実があるかもしれません。
また、相続税法上では、遺産分割協議を行うことで受けられる優遇処置もありますので、相続が発生された場合には出来るだけ早めに専門家に相談される等の対処をされることをおすすめします。


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